1953年の創業以来、「衣食住遊学」の複合商業施設として日本の都市文化をリードしてきた株式会社パルコ。ファッション・エンターテインメント・アートを融合させた独自のカルチャーは、時代を超えて多くの人に愛され続けています。
同社は2026年4月、CHEERS株式会社の感性育成ワークショップ「BE VISIONARY」を導入。社長・役員・部長クラスの経営幹部計24名が参加し、絵を描き、香りで言葉を紡ぎ、瞑想を経て自らのビジョンを語るという、右脳をフルに使うエモーショナルなプログラムを体験しました。
重要な組織の変革期に、なぜ彼らはあえて「感性」にフォーカスしたのか?
本記事では、ワークショップの導入を決めた企画者の落合功男さん、受講者の小林大介さん、大河内聡子さんの3名に、導入の背景とプログラムを通じて得られた組織のチームビルディングについて話を伺いました。
※掲載内容はすべて取材時(2026年5月)の情報に基づいています。
INTERVIEWEE

「スキル」の理解から「価値観」の共有へ。組織の変革期に、感性でボードメンバーを繋ぐ新たな試み

―― 今回、BE VISIONARYを導入するに至った経緯を教えてください。
落合:私がはじめてこのワークショップを受講したのは、2026年3月に福岡で行なわれたICCサミット(以下、ICC)でした。
ICCでは3日間、数多くのセッションやプレゼンテーションを通して、左脳をフル回転させます。いわば頭を使い切った状態の最終日に臨んだのが、CHEERS 株式会社の代表であり、ファシリテーターを務める白井さんの感性育成ワークショップでした。
このワークショップは、それまでに受けたものとは異なり、脳の全く違うところが刺激され一気に目覚めるような感覚がありました。静かに内省を深め、内側から湧き出てくる「既存の枠を超えた言語化」を楽しむことができ、とても新鮮な体験でした。
1テーブル4名で、初対面の方と一緒に体験をしたのですが、ほんの数時間で、お互いがどんな感性を持っているのかを驚くほど深く知ることができました。終わる頃には、まるで昔からの”マブダチ”のような関係になっていたほどです(笑)。
―― 私も当時会場にいましたが、無邪気な子どものように笑う皆さんが印象的でした。パルコさんで導入しようと思ってくださったのは、なぜだったのでしょう。
落合:いまパルコは経営体制が大きく変わる過渡期にあります。ホールディングスや百貨店、さらにはまったく畑の違う他業界から加わったメンバーが増え、ボードメンバーの顔ぶれも以前とは様変わりしました。
それぞれ異なるバックボーンで集まったボードメンバーたち(役員や幹部など)の“スキル” は把握できても、その奥にある“価値観や感性”を理解しあうことは容易ではありません。
よりよいパルコを作るために、チームビルディングにつながる何かをやりたいと考えるなか、白井さんのワークショップに出会い、瞬間的に「これだ!」と依頼しました。
右脳を使って子どものような無邪気さへ。感性を通じて見えてきた、知らなかった仲間たちの輪郭

―― 当日は、あまり詳細を聞かされずに参加したと聞きましたが、会場に入った際、どんなことを思いましたか?
大河内:当日は、「汚れるかもしれないのでカジュアルな服装で来てください」という事前アナウンスのみで、パルコの役員や幹部たちが約20名集められました。
会場に入ると、日頃受けている研修とは違い、アートの道具がずらっと並び、これからどんなことが起きるのだろう…と思いました。
―― 大河内さんは日頃、どんなお仕事や役割を担っているのでしょうか?
大河内:私は、執行役員として、情報システム推進部と総務部を担当し、企業の基盤を作り、業務を円滑に進めるためのサポートをしています。
システムの運用管理や導入を進めるうえでは、ロジカルに検討したり、動いたりすることが多く、ニュアンスや感覚で形作ることはあまりないのですが、イノベイティブな発想やトライアルには情熱や感情という動機がとても大切だと思います。
パルコはお取引先も多岐にわたり、クリエイティブな方も多いので、他社よりはアート的な思考に触れる機会は多いほうだと思いますが、思い切りアートに振った今回のような取り組みは初めての経験でした。
―― 実際に受けてみていかがでしたか?
大河内:日頃自分で絵を描いたりする機会はほとんどなく、社内で受ける研修も一般的なものが多いので、こうして役員が集まり、感性を使って頭を柔らかくしていく研修ははじめての体験でした。
ワークショップの最中は、昔子どもが小さかった頃に一緒に絵を描いていた感覚を思い出しながら、色の変化や曲線を、あまり意味づけすることなく楽しんでいました。
一方で、周りをみると、直線的な絵を描く人や、意味づけをしながら進める人もいて、それぞれの違いを感じました。私の上司であるCIO(最高情報責任者)は、直線が多く、色もはっきりとしていて、「物事を構築してきた人の頭のなか」を感じ、よりその方を知ることができました。
企画・編集のプロが感じた心地よさ。プリミティブな体験から生まれる柔らかな関係性構築

―― 小林さんは、日頃どのようなお仕事をされているのでしょうか?
小林:パルコには、店舗事業と同様に、創業時から続けているエンターテインメント事業があります。パルコがパルコたる特異性を出しながら、生活者のみなさんに価値を生み出すために、新規事業を中心に事業開発をしています。
―― ワークショップが始まる前は、どんなことを考えていましたか?
小林:編集や企画に長く携わっているので、「どう相手に気づかれずに、行動変容を促すためのトリガーを仕込むか」を考えてしまう癖があります。
ワークショップが始まる前は、会場のセッティングなどを見ながら、これから始まることを探偵気分で推測していました。
――実際に受けてみていかがでしたか?
小林:一言でいうと、気持ちよかったです。
チームビルディングにおける信頼関係の構築って、例えば富士の樹海をみんなで24時間走るような高負荷なものもあれば、小さい負荷でお互いの柔らかいところに触れられて、自然と今まで見せてこなかった側面を共有できる場合があると思うんです。
今回のワークショップは、研修にありがちな身構えてしまうこともなく、絵を描いたり、音を聴いたり、自然でプリミティブな行動を通じて、互いのコアな部分に触れることができました。すごく柔らかい手法で、とても気持ちがよかったですね。
―― 特に印象に残ったワークはありますか?
小林:本編とはずれるかもしれませんが、会の序盤で、「ワークショップ中の呼び名を自分で決めてください」というワークがあったんです。
とある監査役が、「私のことはシェフと呼んでください」と言ったのですが、普段とは異なる呼び名をつけたことで、すごく鮮やかに関係性が壊れた瞬間でした。シンプルな仕掛けで、こんなにも普段と違う関係性を作れるのだと驚きました。
一人ひとりの感性を「会社としての感性」へ。深い内省で見つめ直す、組織のなかでの「私の姿」

――BE VISIONARYでは、五感を使ったワーク後、瞑想でさらに自分の内側へ深く入っていただきました。そのときの体験を教えてください。
落合:ICCの時もそうだったのですが、なかでも衝撃を受けたのが、このワークショップの瞑想でした。
普段、瞑想をすることはほとんどないのですが、五感をひらくさまざまなワークを重ねた後に瞑想に入ったことで、ごく短い時間にもかかわらず、自分の内側へすっと深く沈み込んでいくような感覚があったんです。さらにシンギングボウルの響きが、より瞑想への集中を高め、あれにはすっかりハマりました(笑)。
小林:瞑想って本来は自分でもできるはずなんですけど、会社の朝礼で時間を決めて…とかも違うじゃないですか。
やりたいことだし、大切なことだとわかっているのに、なかなかできない。だからこそ、一連のプログラムのなかで自然と深く瞑想できた体験は、非常に心地よいものでした。
――プログラムの終盤には、「パルコとわたし」、「事業KPIと個人の想い」などを接続するワークにも挑戦していただきました。そこでの体験はいかがでしたか?
落合:実はあのワークは、事前に白井さんから知らされていなかったうえ、ICC 受講時にも組み込まれていなかった仕掛けだったため、完全にサプライズでした。
ボードメンバーそれぞれの感性や価値観を深掘りし、それをシェアすることでチームビルディングに繋げるだけでなく、最終的に「自分たちは何者か」に帰結し、「では会社としてはどうあるべきか」にまで落とし込んでくださったのは、本当に見事なトータルデザインでした。
大河内:私が担当しているシステムや総務部門は、現場から少し離れたところにあるため、周囲に仕事の中身や意義が伝わりにくいという難しさがあります。だからこそ、みんなを巻き込んで一緒に進めていきたいという想いがあり、普段は「なぜこれをやらなければならないのか」という理由を丁寧に伝えるよう意識してきました。
しかし、今回のワークショップを通じて、左脳的な理由だけでなく「もっと『私がこうしたいから』という主観を伝えてもいいのかもしれない」と思えるようになりました。それと同時に、メンバーの皆が本当はどう思っているのかももっと聞いてみたいという気持ちも湧いています。
世代・役職・部署を超え、感性で響き合うこれからのチームビルディング

――最後に、このワークショップはどんな組織やチームに向いていると思いますか?
落合:一人ひとりが自分の感性や価値観を深掘りし、それを周囲に開いて共有していくことで、チームビルディングを育んでいく。このプロセスは、業種や規模を問わず、基本的にはどんな組織やチームにも応用できるものだと思います。
ただ一方で、すべての人がすぐに馴染めるかというと、そこは少しグラデーションがあるようにも感じます。自己開示や内省に対するある種の「素養」のようなものが必要な気もします。とはいえ、そうした種は誰の心の中にも、もともと眠っているものなのかもしれません。
結局のところ、参加するメンバーがそのときどんな状態にあるかによって、得られる手応えは変わってくるのだろうと感じています。
小林:私は、このワークショップはチームビルディングにとても有効だと思います。それこそ世代を超えて、30代、40代、50代の人を必ず混ぜるような形で行うのも面白いのではないでしょうか。
世代が違うと、日常業務のなかだけでは、なかなか超えられない“壁”のようなものが存在しますが、このワークショップは扱うテーマが非常に根源的なので、年齢やキャリアに関係なく、世代を超えたフラットな対話が自然と生まれると思います。
大河内:自社内だけでなく、いろいろな会社が混ざり合って開催するのも面白そうですね。よく「他社と一緒に新規事業を考える」といった合同研修がありますが、異業種の方々と一緒に「頭を柔らかくするプロセス」から共有していくのも面白いと思います。
また、社内に目を向けると、中堅やマネージャー、管理職といった層にはぜひ受けて欲しいです。会社でキャリアを重ねるほど、こうした「ほぐす」機会が必要になりますし、どの部門でも、ベテランから次の後継者へのバトンタッチは共通の課題のはずです。
ベテランが持つノウハウを若い世代が吸収し、そのうえで新しいものを創り出していくような「知の継承とイノベーション」を促す土台としても、このワークショップは非常に機能するのではないかと感じています。
会社概要
企業名:株式会社パルコ
所在地:東京都渋谷区神泉町8-16 渋谷ファーストプレイス
設立:1953年(昭和28年)
事業内容:商業施設の運営・管理、エンターテインメント事業、新規事業開発 等
URL:https://www.parco.co.jp/
